とある神官の話




「助けに来てくれたんですか?」

「今――――」

「待ちなさい」




 前に出ようとするレオドーラの腕をとり引き止める。「様子が可笑しい」とゼノンは口にはしたが、自分だって冷静でいられない。レオドーラのように今すぐにでも、というのを抑えていた。 

 冷静に、考えろ。

 "可能性"。
 よぎった様々なことに、ゼノンは揺れていた。動揺もしている。だが、覚悟をしたはずだ。なのに、いざ目の前にすると、その覚悟が揺らいでしまう。

 ランジットの「ハイネン!」という言葉と「ゼノン!」というハイネンの声が重なった。




「彼女は、中身が―――」

「嫌だなぁ、ハイネンさんったら。中身ってなんですか?」




 戦慄がはしるというのは、こういうことをいうのだろうか―――。
 思考が停止し、恐ろしさと、今目の前で起こっていることが意味することを理解した。足元から崩れていくような感覚に陥る。

 前は……ハインツの時は、寸前で止められた。しかし今はどうだ。


 シエナ・フィンデルはそこにいた。


 ようやく見つけた。なのに「しっかりしろ、ゼノン」ランジットの声にはっとして気を引き締める。そうだ、しっかりしろ。
 固まっていた体は動くようになり、我に返るとレオドーラの「お前、誰だよ」という鋭い声が投げつけていた。剣の先は向こうに向けられていた。



 
「誰って、そんなの決まってるじゃない。知らないでここに来たの?」

「……いっておくけどな、俺の知る女はそんなんじゃねーよ」

「同感です。あなたは、違う」

「違う?」

「―――貴方は、誰ですか」




 シエナだが、"シエナじゃない"。

 そうゼノンはそう問いかけると、"シエナ"は「誰だろうな」と笑った。それは諦めと、嘲笑が混ざったようなものだった。




「とうの昔に忘れてしまいましたよ」




 あの術は、完成していた、のか?
 もしそうなら、今、目の前にいるのは…。

 どうする。どうしたらいい?

 戸惑うゼノンらをよそに、"シエナ"は低く笑った。
 だが「っ!?」黒い刃がまわりに姿を見せたことにより、それぞれが臨戦態勢となった。ゼノンもまた剣を握って、様子を見る。




「――――必要なもの以外は、邪魔でね」

「来るぞ!」




 腕がふられると同時に、浮遊していた刃は襲いかかってくる!
 レオドーラは回避、ゼノンはそのまま黒い刃を受け止め、そのまま能力をのせて破壊してやる。

 アレクシス・ラーヴィアは、シエナに眠る術式はやつらには取り出せないといっていた。マノもまたそれと同じようなことをいっていた。"眠る術式"は。

  ウェンドロウ―――ハインツがジャナヤでやろうとしていたことを、したのか。

 封じられている術式は今すぐに取り出せずとも、本人を捕らえているなら、何とでもできる。ならば先に本人を捕らえようとするのは普通だ。それくらい、守りの術をかけていた彼女の養父だってわかっていたはずだろう。


 ジャナヤで一度失敗しているものと同じものをしたとは思えない。同じ様な方法でやってみせているのだ。
 ウェンドロウが、ハインツとなったように。

 あの時とは違うだろう。ならば、どうやったら彼女はもとに戻るのか。
 
 体は彼女のものだ。
 だから、手を出しにくい。それは向こうもわかっているのだ。つまり、こちらは不利だった。



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