とある神官の話





 マノがいないことに関して、逃げた、とは考えにくかった。あれだけの情報を持って、しかもわざわざレオドーラを使ってまで聖都に連絡してきたのだ。ここにくるという目的はあったはず。
 目的地について、どうするのか。

 シエナを助けるとはいっていたが、彼は今ここにはいない。
 "シエナ"はここにいるというのに。


 それにしても、時間を稼げとは無茶をいう。ここで時間を稼ぐのなら、ずっと動けなくてはならない。体力、集中力には限界がある。ましてこの季節だ。

 無茶をいう。
 本当に。

 ランジットがゼノンの後ろにいて、「どーするよ」と。「いつまでもダンスっていうわけにはいかねぇぞ」もっともだ。いくら体が資本のランジットや、同じく戦う側のレオドーラらとてここにくるまでの戦闘で疲労している。




「時間があれば、確かに様々なことが出来るでしょう。だが、一人だけ不老不死になったところで、ただ、置いていかれるだけですよ」

「違うな。こちらが置いていくのだよ。何かを成し遂げられず死んでいく者らを。無惨に死ぬ者らを、な」




 ―――ああ。
 短く「時間稼ぐ」とランジットに伝えると、後ろで「じゃ、もう少し敵とダンスしてやるか」と笑ったのがわかった。

 マノを、完全に信じていない。
 だが、完全に敵とは思っていない。

 そんな相手がいう、時間を稼げ。それにゼノンは従うことにした。
 もちろん、理由はマノだけではない。ここにいない、キース・ブランシェらがここまでくることを期待しているのだ。


 不老不死。


 いつの時代にも、それを願い研究する連中がいた。闇堕者らは、言葉でいい表せないほどの酷い実験をしてきた。歴史を紐解けば様々なところでそれは行われてきて、多くが死に、悲しんだ。

 罪。
 断罪できる数など、たかが知れている。

 人は、弱いものだから。弱くて、どうしようもなくて。だが、悪いばかりだけではない。
 
 不老不死、か。
 時間があれば。老いず美しい姿のままなら。可能性は無限に広がることだろう。だが――――違う。




「………何を笑っている」




 眉を潜め、不愉快だといわんばかりのそれは、ゼノンに向けられている。周囲には新たに作られた刃が浮遊していた。
 
 自分一人が不老不死となった場合、ゼノンは考えた。ヴァンパイアの寿命ほどは生きるだろうし、様々なことに手を出すだろう。研究し、知り、また新たに何かを始めていく。多くを失いながら。




「―――貴方には、無理です」



 
 ゼノンは、見据えてそういった。
 彼女は不愉快げに眉を潜め「…何?」と聞き返す。それでいい。こちらを見ていろ。


 時間、稼いでやろうじゃないか。
 

 ゼノンは口許に笑みを浮かべる――――。



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