とある神官の話





 まあ、死者に文句は言えるが、実際はどうすることも出来ない。




「父さんらしい」




 泣いたり驚いたり笑ったり、随分忙しい。
 この手紙を受け取った猊下もそうだったのではないだろうか。

 丁寧に手紙を戻す。

 今度は、私の番。
 言われた通り、私への手紙をとる。これが父からの手紙だと思うと、どきどきする。苦しいくらいで、深呼吸する。


 父は、どんなことを書いたのか?


 猊下への手紙には、猊下個人への内容も見られた。
 私のも、同じだろうか…?





 ――――元気でいるか?

 
 私は、"マノ"には会っていない。目が覚めたときにはゼノンがいて、彼の姿はすでになかった。記憶ではおぼろげだが残っている。外套。きれいな顔。だがそれは、父の
顔ではない。
 
 手紙は、あの地へ行く前に書かれたものだ。

 始まりは挨拶からで、私への心配の言葉が並ぶ。今までどう過ごしていたのだろう。病気はしなかったか。風邪とか。苛められたりはしなかったか。変な男にひっかかってないか――――などなど。
 そういえば、私が父に引き取られて初めて風邪を引いたとき、一番慌てていた。薬!いやまずは氷!と。寝込みながら、私は心配してくれているのが嬉しくて、泣きたくなった。実際涙が出て、更に父を焦らせたのだが。


 そこには、レオドーラ・エーヴァルトの名前があった。"マノ"はレオドーラと一緒だったことはもう知っているから驚かない。が、変わりに『レオドーラから聞いたよ』などと書かれたら、何を話したんだろうとはらはらする。
 だが、"マノ"は正体をレオドーラに隠していたから、私についてあまり聞いていないそうだ。

 だが、レオドーラが私を助けるために動いていること。レオドーラだけじゃない。様々な人が動いていることを知って『安心した』と。『随分成長したものだ』と。成長したといわれて、ほっとする。父のように、とはいかないだろうが、頑張ろうと思ってきたから。




 文章は、長いものではない。
 時間がないというのもあるが、あまり長く書けば、という感じがする。


 私としては、長く書いてほしかった。それだけ父を感じられるから。

 でも……。
 十分だった。
 



「父さん……」




 今私の顔は、相当酷いことになっているはずだ。ただでさえ美人でも可愛くもないのに。でも、泣くな、だなんて無理な話ではないか。
 『泣くな』無理だよ。そう文句を言いたくなる。


 貴方はだって、いないじゃないか。


 わかってる。悲しむのは悪いことじゃない。だが、その先が大事なのだ。

 胸が痛い。
 痛くて、死んじゃいそうだ。


 だけど、父はその悲しみのままを許しはしない。生きていけという。わかっている。ちゃんと前を向くよ。ぼたぼたとみっともなく泣いても、わかっているから。




 ―――私は、シエナの幸せを願っているよ。

 ―――愛するシエナ。
 ―――シュエルリエナ。私の娘。


 ―――君の父、セラヴォルグ・フィンデル。




 今は、そう。

 今は、子供みたいに泣いても、いい、よね…?




 ――――――…………。



 

 その日の会議にて、身柄の保護が解かれることが決定した。


 


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