とある神官の話

とある神官の話





 ――――???年。



 広くはない部屋には必要最低限のものが置かれている。

 本棚には、神官に関わるもの…能力持ちについての書物や資料がつまっている。おさまらないものは本の上にあいた僅かなスペースに詰め込まれていた。よくよく見ると絵本なんかも混ざっているのでそろそろ整理しなくてはならないだろう。


 そんな本棚の他に仕事をする机がある。机には引き出しがついていて、机上には書類。すでに処理をしたものと、これから片付けなくてはならないものとにわけられている。


 椅子に座り、処理をしながら部下の話を聞いているところだった。外は空が橙に色づき始めている。




「―――妙な話、ですか」
 
「ええ。しかも女性たちの中で流行っているとか。私は同僚から聞いたんですが」




 ―――そういう始まりだった。

 男性神官は同僚から聞いたという、"妙な話"とやらをこの部屋の主、ゼノン・エルドレイスへ話した。

 ゼノンはというと、女性らの間で流行っているということで恐らく色恋云々だとか可愛いものショップとかイケメンとか(以下略)だと思っていた。
 仕事の残りを片付けながら、人々は本当に噂が好きなのだなと呆れるのを通り越し、感心する。

 しかし、だ。

 聞いていて、段々ゼノンの手が動きを鈍区させていく。話している男性神官は気がつかない。
 


 男性神官が話す"妙な話"というのは、とある神官のことだった。とある、というのは名前が知られていないということらしい。本名を言ったらまずいからと、話のなかに出てくる人物らも本名ではなく、説明上の名前―――アルファベットなどで説明していた。
 ちなみに、アルファベットもまた当てはめる人物が"妙な話"を知る人らによってバラバラだったり、またはアルファベット以外だったりするらしく、特定したくとも困難なっているとか。


 黙って聞いていたのだが途中で、はて、と思った。ただ聞いている、というのが、じっくり耳を傾けることになり、思わず顔を覆いたくなった。

 ……あの野郎か。

 呪ってやろうかと(彼女の耳に入ったらと思うと…)思った。
 もちろん、顔には出さないが。

 
 頭には、過去が甦っていた。
 懐かしいというのと、大変だったというのと、様々だ。

 若気の至り(?)もしかいえない、追いかけ回し、とか。





「―――真相を知っている方がいるようなんですが、聞けばはぐらかすような答え方をするという話なんです」

「ちなみに貴方は誰が知っていると思いますか?」




 興味故に、聞いてみた。
 自分が彼と同じくくらいのときの、"名前の上がる有名人"(色んな意味を含めて)と、今は違うかもしれない。

 神官は書類を片付けてながら「そうですね…」と考える。





「シュトルハウゼン枢機卿は、怪しいかなと。あのお方は謎だらけですし…」

「確かに彼は謎ばかりですね」

「同僚の話だと、その"とある神官の話"について聞いたとき、物凄くにやついていたっていってましたし……ですが、私はあのお方の友人がたも気になってます」

「では、私もですか?」

「あ、いや、その」




 あの奇人変人代表のヨウカハイネン・シュトルハウゼンの"友人"は、やはり変わり者が多い。
 彼は私がハイネンと知り合いであることを忘れていたらしい。

 ハイネンはヒトよりも長い命を持つヴァンパイアで―――どうやら今でも変わり者として有名人らしい。その友人として、わかるが、自分もそう思われているのかと思うと複雑である。

 


「いい線をいってるんじゃないでしょうか。彼、無駄に詳しいですから」




 書類を片付け終えて、一呼吸。今日の分は終わった。



「さて、今日は終わりにしましょう。運んだら帰っていいですからね」

「わかりました」

「ああ…そっちのは資料だが、まだ使うからそのままにしておいて下さい」




 筆記具などを片付け、身なりをととのえる。
 書類らはこの神官に任せておけばいい。明日にはまた書類が机に置かれていることになる。いつものことだ。

 部屋を出ようとして、ふと考える。それはこの神官が話していた"妙な話"やらだ。"あれ"を知っているのは限られた人物だけなはず。
 入り口で固まった私に「どうしました?」と。
 恐らく、犯人は―――辺りだろう。このままだと尾ひれがついていって、話が大きくなっていくのではないか。





「君の推理は正しいです」

「えっ…?」



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