とある神官の話






 聞けばあの、ダナ・フィルタが起こした事件から、ブエナの孤児院に顔を出すようになったという。そう説明して、そそくさと出ていったブエナを密かに怨んだ。二人っきりにするなど!確信犯としか思えなかった。






「何かあったのですか」

「ええまあ。仕事で聖都を離れるので」






 僅かに動きをとめ、こちらを見たゼノンと目があう。離れるのですか、と。

 ええ離れます。これでしばらく彼と会わなくなる。別に言う必要はなかったのだが、成り行きだ。そう、成り行き。
 そのまま黙ってしまった彼に、少し拍子抜けした。彼のことだから何か言うかと思ったのだが。いや、別に期待したわけではない。そうだ。そうに決まっている。


 ブエナにもいわなくては、と私は立ち上がる。その時。彼は「シエナさん」と名前を呼んだ。






「好きですよ」





 何を、と私は振り返る。すると、控えめに笑うゼノンがいて「顔赤いですが」と憎たらしいことを言った。





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