青い星〜Blue Star〜
「さっき、沖田さんと土方さんに歴史を変えるなと言った手前、非常に言いづらいのだが……」
顔が腫れているせいで口を開くと鈍い痛みが広がる。
「本当は傍観者でいるつもりだった。いくら貴方たちを好きと言っても歴史を変えることは大罪だし。だけど、実際貴方たちを見たら助けたいと思った。貴方たちと共に生きたいと、貴方たちの未来を見たいと思ったんだ。」
このまま何もせずにいれば、平成に伝わる通りに。
幕府と共に最後まで戦い抜く彼らに待つのは幕府の裏切りと朝敵(朝廷の敵)というレッテルだ。
彼らはこれから有名になる。
しかし、戦が始まれば負け戦ばかりだ。
「ただのエゴ……ではなくて、自己満足なんです。私の知識でどこまで出来るか判らないけれど。でも、これから何が起こるか知っているのに気づかない振りをして背を向けるのは士道不覚悟。壬生浪士組の隊士になるのに、それでは貴方たちに示しがつかない。」
男たちは何も言わない。
否、言えないのか。
「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす。おごれる者も久しからず。ただ春の夜の夢のごとし。たけき者も遂には滅びぬ。ひとえに風の前の塵に同じ。平家物語の冒頭ですが私が知る壬生浪士組の歴史はまさにこれです。」
私はどこまで偉い人間なんだろう。
壬生浪士組を助けたいなんて、エゴの塊じゃないか。
こんな上から物言う私は彼らの瞳にどう映っているのか怖くて怖くて押し潰されそうだ。
誰も何も言わない。
ひどく居心地が悪かった。
いっそ、歴史を変えるなんて大それた事、お前は一体何様だと罵られた方がマシだとも思った。
重苦しい雰囲気の中、総司が口を開いた。
「それで、お前はどうするんだ?」
「へ?」
「『へ?』じゃねぇよ、このすっとこどっこい。お前の提案は此方としたら有難い話だ。だが、もし本当に歴史を変えたら死ぬはずだった者が生き、生きるはずだった者が死ぬ。つまり先の世まで変わる。お前、消えるんじゃねぇか?」
この無愛想な江戸っ子はどこまで優しいんだろう。
この期に及んで私の心配か。
「それでもいい、と思ってしまう私はおかしいか?歴史を変えるという大罪を犯すんだ、私は。」
「ふん。勝手にやれや。俺は何も言わん。自分たちを良い方向に差し向けようとしているアンタに逆らう理由がねぇ。アンタは歴史を変えることが罪と思っているようだが、アンタにとって過去でも俺たちにしたら今だ。今を変えることは罪にはならん。」
「それに……」と総司は照れ臭そうに続ける。
「アンタが消える云々は知らねえけど、俺も願わくは平和な世でアンタと酒を飲みかわせたらと思うよ。アンタ、いい女だしな。」
顔に熱が集まるのが判った。
どうして、こういうクサい台詞をかっこよくサラッと言えるのだろうか。
火照る顔を隠すため慌ててそっぽを向くが、それをこの江戸っ子が見逃すはずもなく…
「おい!茹で蛸だぞ、嬢ちゃん!」
「うっさい!沖田さんが思いっきり殴ったから腫れているだけだ!」
「じゃあ、殴ってない方まで赤いのは何でだろうな?」
ニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべる総司。
一つ、判ったこと。
この男、デリカシーがない!!