この空のした。〜君たちは確かに生きていた〜



 ある日。日新館から早々と屋敷に戻られた兄さまが、帰るなり私におっしゃった。



 「ゆき。これから雄治のところへ行ってきてくれないか。
 あいつも……姉君も、きっとお前を必要としてる……」



 どういう意味で、兄さまがそうおっしゃったのかわからない。

 けれど兄さまが、ひどく真面目なお顔をされていたから。

 胸騒ぎを覚えて、私はすぐ利勝さまのお屋敷へ向かった。



 いつもの通り、馴れた道を通り抜ける。
 新町から出て湯川に架かる橋を渡り、厩町から花畑へ。

 知らず足は早足になっていた。

 そうして利勝さまのお屋敷に着くと、私は玄関から声をかける。



 「ごめんください」



 おとないを入れても、辺りはシンと静まりかえるばかり。

 いつもなら、くら子さまかさき子さまがすぐ応えて出迎えて下さるのに。


 皆さまお出かけで、お留守なのかしら?
 じゃあどうして、兄さまは利勝さまのお屋敷へ行けと?

 もしかして利勝さまが大ケガでもされて、皆さま揃ってお医者さまのところへ向かわれたとか?



 そう思ったら心配で居ても立ってもいられなくて、失礼とは十分認識しつつ、裏口へとお邪魔した。



 裏口を覗いても、誰もいない。



 なんかおかしい。

 たしかにまだ残雪が残っているけれど、こんな昼日中に雨戸を()てているなんて。



 やっぱりお留守なのかしら、帰ろうかしらと思いながら、ぐるりと庭のほうも回ってみると。



 利勝さまが いた。



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