重なる身体と歪んだ恋情
閉鎖された空間にホッとして、タイを緩めながら息を吐く。

彼女と朝食ね。

司が望むならそれもいい。

どうせ挨拶程度の会話しかないというのに。

ジャケットを放り投げて窓の傍にある椅子にドカッと座る。

疲れた。

もう一度息を吐こうとして、


「奏様」


弥生の声が聞こえてきた。


「どうぞ」


そう言うと静かにドアを開け頭を下げる弥生。


「お風呂の用意、どういたしましょう」


なるほど。

疲れてるときに風呂と言うのもいいかもしれない。


「お願いします」


だからそう答えると弥生はまた頭を下げて「畏まりました」と部屋を出て行こうとするから、


「弥生」


呼び止めてみた。


「一緒にどうです?」

「お戯れを」


即答とは面白くない。


「ならば背中を流してください」

「……お望みでしたら」


そんな従順な答えに微笑めば弥生も顔を上げて。


「如月様に頼んでおきます」

「……」


なんて回答はきっと司が教えたのだろう。


「いや、いい。如月にももう休んでもらってください」


続く私の声に弥生はまた頭を下げて部屋から出て行った。

賢い女は好きだ。

だが、


「賢すぎるのは可愛く無いな」


そう呟いてさっき中断されたため息を吐き出した。
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