重なる身体と歪んだ恋情
外に出れば、


「奏様!」


この家に似つかわしくない明るい声が私を呼んだ。


「郁。早いね」


そう言うと郁は司とよく似た面差しで全然違う笑顔を見せる。

本当に兄弟か? と疑いたくなるくらい性格の違う兄弟。


「あんまり遅くまで寝てたら兄さんに怒られるんです」


そう言って苦笑いする姿はまだ少年といっていいほど。


「司は口うるさいからね」

「でも間違って無いから言い返せないんです」


全くだ。

今度は私が苦笑いする番。

すると郁は「あ」と思い出したように声を上げて。


「ハーブ、千紗様に気にいってもらえたみたいです!」


なんて。

そんな報告に薄く笑みを浮かべると郁も満足そうに笑う。


「なら今度また珍しいものを取り寄せよう。欲しいものは?」

「えっと、ラベンダーがいい香りらしいのですがどうもこのあたりの気候とは合わないみたいで、だから料理に使えるセージとかください。大切に育てますから!」

「分かった。私も色々調べてみるよ」


そう言うと郁は「ありがとうございます!」と元気よく頭を下げて、それから温室のほうに駆けて行った。

郁とは歳も近いし話すことも簡単なのだろう。

元々そのつもりで郁もうちで引き取ったのだし。

ハーブか。

興味なんて欠片も無かったけれど。

少しだけ、ハーブティがどんなものか飲んでみたくなったな。

そんな考えに自嘲して、


「おはようございます、社長」


緑川の声に「おはよう」と返し開けられたドアから車に乗り込んだ。

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