重なる身体と歪んだ恋情
それから普通に仕事して適当に遊んで。

それでも毎日家に帰るのは、


「お帰りなさいませ、奏様」

「……」


毎日、私付きでもないのに司が迎えてくるから。


「少しは早く帰られませんか? 千紗様もお一人のお食事は喉が通らないようで」

「私がいるともっと通らないように見えるね」

「気のせいです」


だといいんだけどね。


「家具」

「?」

「気に入られたようですよ。搬入も済ませました」

「……そうですか」

「ドレスも。八重様デザインのわりにシンプルで素敵な出来上がりのように思えました」

「それはよかった」


多分これは嫌味だ。

司が八重を嫌ってるのは分かってる。

私も潮時だと思うしね。


「次からは違う店を。八重の店も忙しいようなので」


そう言うと司は少し驚いた顔をして、


「だから電話局に電話の撤去を。あぁ、緑川にも取り次がないように伝えないとね」


続く私の台詞に、


「畏まりました」


と頭を下げた。

タイを緩めて広間のソファに座る。

弥生がテーブルに置いたのは琥珀色の液体で。


「カモミールだそうです。如月様が言うにはよく眠れるとかで」


そんな台詞に如月のほうを見れば軽く頭を下げて。


「明日はお早いお帰りを」


そう言うと主の私を残してさっさと部屋から出て行ってしまった。

残されたのは私と弥生とカモミールで。

そのカップを手にして口に運ぶ。


「……不思議な味ですね」

「そうですか」


彼女は本当にこんなものを気に入ったのか?

気に入ったのは他のものだったり……。


「弥生」

「はい」

「私はこんなものより女性の肌のほうがよく眠れると思うのだけど」

「では千紗様に相談なされてみては?」


ニコリと笑うことなく言ってのける弥生。本当に、


「お前も如月も冗談が通じないね」


そう言ってカモミールを飲み干せば、


「申し訳ありません」


と弥生は頭を下げた。

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