重なる身体と歪んだ恋情
ここに椅子はひとつしかない。
だから私は机に腰掛けて彼女に椅子を勧めた。
彼女としては目当ての本も貰ったことだし一刻も早くここから出たいと言ったところだろう。
だけどここには私の持ってきたデザートがあって、
「食べながらでも読むといいですよ。飲み物は? 弥生に持ってこさせましょう」
そういえば何か言いたそうに口を開くから、
「うん、これならシャンパンが飲みたいかな」
そんな声は聞かないフリをして弥生に目配せを。
すると彼女が「畏まりました」といって部屋から出て行く。
所在なさげに床ばかり見つめる彼女にもう一度席を勧めて、
「はい、あーん」
「は? んっ!」
無理やり苺を口の中へ入れた。
驚きながらも苺を咀嚼する千紗。
こんな姿を見れば彼女は間違いなく16歳で、甘酸っぱさに顔を歪める姿は可愛らしい。
すぐに弥生がシャンパンを用意してそれをグラスに注ぐ。勿論彼女の分も。
まるで本当の夫婦のようじゃないか。
見た目だけなら。
「そういえばあなたと二人きりで話すのはあのお風呂以来ですね」
「――なっ!? あ、あれはっ!」
慌てる彼女が面白くて楽しくて、
「乾杯」
勝手に彼女のグラスに自分のグラスをぶつけた。
私がシャンパンを口に運べば彼女も仕方なく喉に滑らせて。
「美味しい……」
なんて声に思わず微笑みたくなるのは夕食にワインを飲みすぎたせいだろうか?
自分で食べれますという彼女の台詞なんて無視してまた口のなかに苺を入れてやれば吐き出すことなく彼女は頬を大きく膨らませながら咀嚼する。
その唇が赤く染まって、
美味しそう――。
そう思うのは私が男だからなのか、それとも相手が千紗だからなのか、その両方なのか。
その後は本の話や他愛の無い話で。
彼女の緊張がほぐれていくのが分かる。
もしかしたこのまま――、
なんて。
「そういえばハーブがお気に召したとか」
「あ、郁に教えてもらって。本当にいろんな種類があって!」
勘違いも甚だしい。
「使用人の名前を親しそうに名前で呼ぶのは感心しませんね」
こうなるのは分かっていて郁を引き取ったのは私だというのに。
「で、でも、如月と同じ苗字だしそれなら年下の郁のほうを名前で呼ぶのは――」
「そうですね。考えてみれば私も『郁』と呼びますし」
別に司でも郁でも構わない。
この家に彼女がいるなら。彼女がこの家に居ることが彼女の存在意義なのだから。
だから私は机に腰掛けて彼女に椅子を勧めた。
彼女としては目当ての本も貰ったことだし一刻も早くここから出たいと言ったところだろう。
だけどここには私の持ってきたデザートがあって、
「食べながらでも読むといいですよ。飲み物は? 弥生に持ってこさせましょう」
そういえば何か言いたそうに口を開くから、
「うん、これならシャンパンが飲みたいかな」
そんな声は聞かないフリをして弥生に目配せを。
すると彼女が「畏まりました」といって部屋から出て行く。
所在なさげに床ばかり見つめる彼女にもう一度席を勧めて、
「はい、あーん」
「は? んっ!」
無理やり苺を口の中へ入れた。
驚きながらも苺を咀嚼する千紗。
こんな姿を見れば彼女は間違いなく16歳で、甘酸っぱさに顔を歪める姿は可愛らしい。
すぐに弥生がシャンパンを用意してそれをグラスに注ぐ。勿論彼女の分も。
まるで本当の夫婦のようじゃないか。
見た目だけなら。
「そういえばあなたと二人きりで話すのはあのお風呂以来ですね」
「――なっ!? あ、あれはっ!」
慌てる彼女が面白くて楽しくて、
「乾杯」
勝手に彼女のグラスに自分のグラスをぶつけた。
私がシャンパンを口に運べば彼女も仕方なく喉に滑らせて。
「美味しい……」
なんて声に思わず微笑みたくなるのは夕食にワインを飲みすぎたせいだろうか?
自分で食べれますという彼女の台詞なんて無視してまた口のなかに苺を入れてやれば吐き出すことなく彼女は頬を大きく膨らませながら咀嚼する。
その唇が赤く染まって、
美味しそう――。
そう思うのは私が男だからなのか、それとも相手が千紗だからなのか、その両方なのか。
その後は本の話や他愛の無い話で。
彼女の緊張がほぐれていくのが分かる。
もしかしたこのまま――、
なんて。
「そういえばハーブがお気に召したとか」
「あ、郁に教えてもらって。本当にいろんな種類があって!」
勘違いも甚だしい。
「使用人の名前を親しそうに名前で呼ぶのは感心しませんね」
こうなるのは分かっていて郁を引き取ったのは私だというのに。
「で、でも、如月と同じ苗字だしそれなら年下の郁のほうを名前で呼ぶのは――」
「そうですね。考えてみれば私も『郁』と呼びますし」
別に司でも郁でも構わない。
この家に彼女がいるなら。彼女がこの家に居ることが彼女の存在意義なのだから。