重なる身体と歪んだ恋情
「はぁ……」
外の空気が気持ちいい。
ここにも人は居るけれど中に比べれば少なくて。
手すりにも垂れてもう一度息を吐きだす。
いつになったら帰れるんだろう?
帰りたい。
結婚して1ヶ月過ぎているのにそう思う場所は桜井の家で、少し笑えた。
お祖母様は元気かしら?
ちゃんとご飯を食べてる?
兄様が邪険にしていなければいいけれど。
「桜井さん?」
「――えっ?」
懐かしい呼び名に思わず反応してしまう。
だって16年間そう呼ばれてきたんですもの、『桐生』の名前より私には馴染んでて――。
「あぁ、やっぱり。桜井さん」
「……大野、先生?」
私の昔の名前を呼んだのは、
「お久しぶりですね」
「えぇ、本当に――」
学校で英語を教えてくれた先生だった。