重なる身体と歪んだ恋情
「どうして先生が?」
「桜井さんこそ、ってそういえば貴女はお公家の家柄でしたか」
ニコリと笑う先生は昔と変わらない。
背は奏さんより少し低いかもしれない。
髪は少しくせっ毛で目は垂れてて笑うと余計でも垂れちゃって年下の私ですら可愛いと思うくらい。
歳は確か私たちより7つ上だったと思う。
「僕は学校を辞めて親の商売を継ぐことになってね」
そう言われて思い出した。
大野先生が学校を辞めたのはもう2年も前の話だ。
そのとき、噂でおうちの跡を継ぐのだと聞いた。
確か家は――、
「海運業、でしたよね?」
そう聞くと先生は「よく覚えていたね」と笑ってくれた。
「だから船員達のビザとかの関係でこういう会に顔を出してるんだけど……」
先生は笑顔に苦さを混じらせて、
「あまりこういうのは向いてなくてね」
少しうねった髪をかきあげた。
「君はお兄さんとここへ?」
「あ、いえ……」
こういうとき、なんていえばいいのかしら?
『主人と』と言うのが一般的?
言葉に困っていると先生は「ま、いいか」といって私の前に手を差し出す。
「折角再開したんだし、一曲踊ってくれませんか?」
「え?」