重なる身体と歪んだ恋情
腰に回された手はふんわり触れるか触れないかギリギリ。

握る手だって優しく、


「始めるよ」


先生はそう合図してくれてコツンッと私の靴先を軽く蹴った。

そして始まるダンス。

3拍子の音楽に合わせてゆらゆらと揺れる。


「偉い偉い、ちゃんと覚えてるね」

「ダンスは得意だったでしょう?」

「英語はイマイチだったけどね」


なんていわれて苦笑い。


「だって英語が必要になるなんて思わなかったもの」

「必要になったでしょう?」

「みたいです」


ふふっと笑う先生に私も作り笑いじゃない、本当に笑顔を浮かべる。


「でも先生も悪いわ」

「どうして?」

「だって外国人の方と全然話す速さが違うもの」

「速く喋ったら聞き取れないでしょう?」

「だから今だって聞き取れないんです」

「なるほど。それは僕の教え方が悪かったか」


そう言ってペロッと舌を出す先生を可愛いなんて思ってみたり。


「そんなときは聞き返してごらん。君と話したいと思ってる人ならきっともう一度ゆっくり丁寧に言い直してくれるよ」

「……そうね」


私と話をしたい人なんて居ないと思うけど。
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