重なる身体と歪んだ恋情

「さて、その場合はどう聞いたらいいでしょう？」

「先生？」

「桜井さん、答えて」

「……」


どうって。

そんなの授業で習ったかしら？

誰かとお話しするときに聞き取れなかったら……。


「Pardon?」

「え？」

「そう聞いてごらん。ちゃんと言い直してくれるから」

「……」

「それでも聞き取れなかったら、『Will you please speak more slowly.』とか」


先生の英語はゆっくりではっきりしてて私にも聞き取れる。


「分かりましたか？」


なんて先生らしい台詞にしかたなく「はぁい」と答えておいた。

先生は今でも先生で私は生徒で。

そんな会話の間もダンスを踊る。

軽快にドレスの裾をひらひらと泳がせて。


「先生は――」

「ん？」

「先生はどうしてお父様の跡を継ごうと思われたのですか？」


大野先生はいきなり辞めてしまわれた。

それはとても突然に。

跡を継ぐためだとしてもあまりにも急だったから。


「仕方なく、かな？」


見上げると先生の笑顔は少し翳って。


「父が病気で入院が決まってね。自慢するほど大きな会社では無いけれど、それでも従業員は居てみんな生活しなくちゃいけなくて」


みんな、好き勝手には生きられない。


「僕以外跡を継ぐ人が居ないなら、仕方ないよね」


私だけでは無いのね。

それでも笑顔を作る先生に、


「そう、ですか」


私も笑って見せた。