重なる身体と歪んだ恋情
曲が終わって私たちの足も止まる。

握られた手も離されて。


「ありがとう、お嬢様」


なんて先生は手を胸においてお辞儀なんてして。だから、


「こちらこそ、先生」


そう言ってドレスの裾を抓んでお辞儀を。

そして、二人して笑いあった。


「それで君のお兄さんはどこに?」

「あ」


そうだった。先生は私が兄と来てると思ってて……。


「千紗さん、そちらはどなたですか?」

「――っ!!」


背中から聞こえる声に、心臓が止まるかと思うほど。

だって……、


「奏、さん」


振り返ると彼が居たから。


「初めまして、桐生と申します。私の妻とはどういったご関係で?」

「妻?」

「――あっ、あのっ、大野先生は」

「先生?」


背の低い私を通り越して奏さんと大野先生の視線がぶつかる。

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