重なる身体と歪んだ恋情
「大野先生は女学校のとき英語を教えてくださった先生でっ」
「そう」
あっさりと私にそういいながらも奏さんの視界に私は入ってない。
「あなたが千紗の英語を。それはお世話になりました」
『千紗』って呼び捨てにされて、なぜだか背中に冷たいものを感じる。
「いえ、お世話なんて。教えるのが僕の仕事でしたから。そう、桐生さんとお名前が変わったのですね」
先生はニコリと笑って私のほうを。
私はと言えばなんとなくその視線に絶えられなくて、視線を少し床に落として「えぇ」と答えた。
「今でも学校の先生を?」
「いえ、今は親の跡を継いで小さな会社を営んでいます」
「そうでしたか。こちらにいらっしゃるということでしたらやはり海外のものを取り扱う商売で?」
「えぇ。といってもうちは小さな会社ですから扱ってるというほどでも」
私抜きで交わされる会話。
お互いを探り合うような会話を数分繰り返して、
「それでは私たちはこれで」
そう言ったのは奏さんで、
「また、お会いしましょう。桜井、ではなかったですね。桐生さん」
私をそう呼んだのは大野先生。
「……えぇ、先生。また」
私がそう口にすると奏さんの手が私の腰に当てられて、促されるまま足を前に動かした。