重なる身体と歪んだ恋情
ほんの1時間ほど勉強した所で話せるようになるはずも無くて。
「千紗様、今日の髪飾りは生花にしましょうか?」
髪を結いながらの小雪の声に「そうね」と適当に答えておいた。
けれど器用に髪を結い上げていく小雪。
前のきっちりとした巻き方ではなくて今日はふんわりとしてて。
「器用なのね」
「え?」
「髪、結うの上手だから」
感心してそう言ったのに小雪は「あぁ」と少し苦い笑みを浮かべる。
「千紗様が来られることが決まって習うように奏様に言われたんです」
そんな台詞に少し驚いてしまった。
もしかして私のために?
部屋を見回せば私のために用意されたものは沢山ある。
ベッドに鏡台、本棚に大きな姿見、それから音の小さな時計に新しい本、そして身に纏うドレス。
どれもお金で買えるものばかりだけど。
「お靴はこれを、バッグの中にはハンカチと小さな手鏡を入れておきました」
すべて用意周到、すべてが完璧。
「用意は出来ましたか?」
ノック音のあと開けられるドアから優しい口調の声が聞こえる。
勿論それは奏さんで、タキシードに身を固めた彼は完璧そのもの。
「えぇ、お待たせしました」
完璧なものの中で、
私だけが出来損ないだ――。