重なる身体と歪んだ恋情
階段を下りて、さっきの大広間ではなくその奥にある部屋のドアが小雪の手によって開けられる。

その部屋は広くない代わりに物で溢れていた。

暖炉にソファ、それに大理石のテーブルにボトルが並べられた棚に食器を飾る棚。

壁には大きな油絵が飾られ、振り子の揺れる時計まで。


「あぁ、そのドレスを選ばれましたか。パリで注目を集めているデザイナーのものなんです。よくお似合いですよ」


白々しい台詞だけれど私は彼に向かって小さく一礼した。

胸は大きく開いてふわりとした生地が体を包む。

裾の長さは膝より上。

真っ黒なそれは全然私に似合わないというのに。


「ありがとうございます」


それでも、私にはこの台詞しか残されてない。

まるで娼婦のようなドレスだとしても、彼にとって私は娼婦と何ら変わりはないのだと思う。


「疲れたでしょう? こちらへ」


自分の座るソファをポンと叩いて私を呼ぶ。

他にも椅子があるのだからそこに座らなくてもいいとは思うのだけど、取りあえずそこに腰を下ろした。

ふわりと揺れるソファ。

少し仰け反りそうになって、驚くと隣からクスリと笑う声が聞こえた。

そしてコトリと置かれるカップ。


「コーヒーはお飲みになりますか?」

「……えぇ」


女学校からの帰り、友人たちと喫茶に寄ってはくだらない話ばかりしてたわね。

お供はコーヒー。

私はその苦さに飲めなくていつもミルクだったけど。

ツンと鼻をつく香りにそんなことを思い出す。

私と同じように嫁入りが決まった由香里さんは幸せなのかしら?
< 17 / 396 >

この作品をシェア

pagetop