重なる身体と歪んだ恋情
暖炉の部屋を出て右に。
「ここは厨房です」
開けられたドアからは食器のぶつかる独特の高い音が響く。
「そしてこちらは当屋敷の料理長の山崎です」
「よろしくお願いいたします」
如月に名を呼ばれいそいそと私の前で頭を下げる初老のコック。
「何かお嫌いなものがありましたら教えていただきたい。奥様の料理からは外しますので」
子供ではあるまいし。
「無いわ。今日の料理もあなたが?」
「はい」
「そう、美味しかったわ。ありがとう」
在り来たりな台詞を口にすると山崎はほんの少し嬉しそうに笑ってまた礼をした。
「厨房横の部屋は使用人の控え室になっております。厨房も控え室も千紗様にはあまり関係ないかと思いましたが一応」
近寄るな。
そう言う意味ね。
でも、お台所にも勝手に入れないなんて。
喉が渇いても如月か小雪に言わないと私は水も飲めないのね。
なんて不自由な生活。
それから如月は中庭から通った大広間とは反対側にある少し小さめの広間と、男性だけが篭るシガールーム、それから2階にあるいくつかの客間と、
「こちらが奏様の寝室になります」
彼の寝室を教えてくれた。
そこは私の部屋の向かいにあるもうひとつの角部屋。
やはり私たち夫婦は同じお布団を共にすることは無いらしい。
それならそれで、構わないわ。