重なる身体と歪んだ恋情
喧嘩。

そうならいいのに。

私は彼と喧嘩すらしたことはない。

そもそも会話だって他人より少し上くらいだと思う。

あの屋敷で言えば、一番話をするのは如月。その次が郁と小雪くらいかしら?

その3人との会話に比べれば奏さんとの会話なんて無いに等しい――。


「千紗さん」

「はい」

「これをあなたにあげるわ」

「……?」


そう言って渡されたのは銀でできたペンダント。


「もう開かなくなってしまったけど、私の大切なものが入っているの。貴女に差し上げてよ」

「そんな大切なもの、いただけません」


見るからに古そうなペンダント。

小さな蝶番が見えるからこの中に写真かなにかがあるのだろう。

きっと彼女にとって大切な何か。


「いいえ、貴女にもらってほしいの。私が持っていると取られてしまうから」

「……」


多分、兄様のことだろう。

古くてもこれは銀。

売ればお金になると分ればお祖母様のものでも奪い取ってしまうかもしれない。


「これをもっていればきっと貴女も幸せになれるわ」


いいえ、お祖母様。

私は幸せになんてなれない。

でも、


「ありがとうございます」


私はそう言って彼女からペンダントを受け取った。
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