重なる身体と歪んだ恋情
小一時間ほどして奏さんと如月が戻ってきて。


「私は会社に向かいます。貴女はまだこちらに?」


その声に答えたのは、


「いいえ、千紗さん、旦那様をお見送りしてさしあげて」


祖母で。だから、


「また参ります」


そういい残して病室を後にした。

家まで車で送るという奏さんからの申し出も、


「お時間が無いでしょうから私のことは構わずに」


断って如月と歩いて屋敷に戻る。

道端には紫陽花の花が咲いていて。

ふと思い出したのは桜井の家のこと。


「ねえ、如月。桜井の家は大丈夫かしら?」


私の嫁ぐことが決まったとき、確か家も抵当に入れられていたはず。

それをすべてなかったことにしてくれたのは桐生家だ。

もしもまたそうなっていたら、どうなるの?


「そちらのほうまでは。なにしろ桜井様が行方不明なので」


本当にダメな兄様。

桜井の庭にあった紫陽花は咲いているかしら?

ちゃんと手入れはされてるの?

もしかしたら――。

頭の中に浮かぶ最悪な状況に私は軽く頭を左右に振って、また前に歩き始めた。
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