重なる身体と歪んだ恋情
薔薇の香りが、遠ざかっていく。

彼の足音が消えて、この部屋から完全に香りが消えて。

私はカップを手にしてふぅと息を吐いた。

私の息に立ち上る湯気が揺れる。


「なにかありましたか?」

「……」


如月は気付いてないの?

なんて、そんなはずは無い。


「千紗様」


膝を折り、私の前に跪いて見上げる。


「私に何なりとおっしゃってください」


如月は優しい。

時に厳しいことを言うけれどいつだって私のことを考えてくれるのがわかる。

だから、


「なんでも、ないの」


涙だけが勝手に零れてしまった。

それでも如月は桐生家の使用人、奏さんが雇っているのだから言うわけにはいかない。

ううん、言ったところでどうにもなら無いから。

だけど涙が止まらなくて。

ぽたぽたと雫がハーブーティの中に落ちていく。

折角如月が入れてくれたのと言うのに。


「千紗様、大丈夫です。貴女が気に病むことなどなにもありませんから」


そう言って如月の手が私の頬に伸ばされて、彼の親指が頬を伝う涙を拭ってくれる。


「大丈夫ですよ。さぁ、それを飲んで今夜はお休みください」


その声にコクリと頷いて、私はカップに口をつけた。
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