重なる身体と歪んだ恋情
晩餐会や舞踏会は週末に限ったことではなくてある日突然言われることもある。

私はと言えば、普段から用事なんて無いし断る理由も見当たらない。

『気分が優れない』

と言えば彼は許してくれるだろうか?

そんなことを考えながら鏡台の前に座り小雪に髪を梳いてもらう。

一度袖を通したドレスは基本二度と着ない。

だけど、彼の気にいったドレスだけは捨てられることなく思い出された頃に用意された。

今夜はその1着、光沢のある琥珀色のドレス。

それを身に纏って髪をひっつめて。

お化粧を施して笑顔を作れば完璧、なはずなのに。

笑えない。

最近は出かける前に胃がキリキリして仕方ない。

だから会場の食事には一切手をつけない。

戻してしまいそうになるから。

お水を貰って会場の隅で早く終わることを祈る。

私、何やってるのかしら?

キリキリする胃に水を流し込んで息を吐く。

もう、帰りたい――。


「桜井さん?」

「はい」


思わず返事をしたのは条件反射だと思う。

顔を上げたそこにいたのは、


「あぁ、違ったか。今は桐生さんとお呼びするべきでしたね」


大野先生だった。
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