重なる身体と歪んだ恋情
隅にいても流れてくる音楽は聞こえてくるもので。


「一曲踊りませんか?」


彼はそう言って手を差し出した。

私がその手を取れないでいたら彼は腰をまげてぐっと顔を近づけて。


「ダメですか?」


って。

子供の頃だったからよくは分からないけど、彼はとても背が高かったような気がする。


「ダメ、じゃないわ」

「踊れないの?」

「――踊れるわ! 私、ワルツは上手なんだから!!」


思わずそう答えると彼は噴き出すように笑って、それから私の手を取った。

実際、ダンスは全然上手なんていえるレベルでは無い。

家ではまだ父様の足の上に自分の足を置いてるくらいで。

さっきの父様とのダンスだって父様があわせてくれたからなんとか形になってる状態だって言うのは自分でも分かっていた。

だけど今更後には引けなくて。

ドキドキしながらホールの片隅に。

そして流れ始める音楽に、


「ほら、簡単ですよ」


彼の腕が私の体をリードし始めた。

かなりの身長差があるからそのダンスはとてもぎこちないものに。

それでも懸命に足を動かして頑張ったのだけど、


「あ」


とうとう彼の足を踏んでしまって。

慌てて足を避けようとしたのに、



「いいよ、そのままで。ちゃんと掴まっておいで」


彼はそのまま踊り続ける。そして、


「しっかり掴まって――」


彼は私の手をギュッと握って私を乗せたままその足を蹴り上げて。


「わっ!」


宙に舞う私の体。

ヒラヒラとドレスの裾が広がって。

ゆっくりと床に降ろされたとき、音楽も静かになっていった。

すると周りから拍手が沸き起こって、あたりを見回せば視線は私たちに集中してて。

恥ずかしくて父様を探してその胸に飛び込んで。


「上手だったね、千紗」


優しく頭を撫でてくれる父様にしがみついていた。

その後、彼はどうしていたのかは知らない。

拍手が鳴り止んでまた別の音楽が始まって。

振り向いたとき、彼はいなかったから。
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