重なる身体と歪んだ恋情
車は屋敷の前に止まって。

奏さんは私を見ることなく車を降りていった。

私も同じように車の外へ。

指先が冷たいのは何も雨に濡れたせいだけではない。


「――奏さん」


多分、これから自分が口にすることを恐れてのことなんだと思う。

だけどもう止まれない。

玄関に入るなり私が彼に声をかけると振り返ることなく奏さんの足は止まった。


「なんですか?」


ゆっくりと振り返って口にされた声は低く、向けられる視線も冷たい。


「私は貴方の妻、なんですよね?」


大野先生にも彼はそう言った。

それ以上でもそれ以下でもないと。

私の台詞に彼は煩わしそうに濡れた髪をあきあげて、


「違うのですか?」


なんて。そんなの――、


「答えになって無いわ。貴方にとって妻と言うのはなんなのですか?」


ただのお飾り人形?

だからって彼は愛でることすらしない。

ただ物を与えて着飾ってこの家に閉じ込めて。

まるで愛玩動物。

たまに散歩に連れて歩いて人に見せたらそれでお仕舞い。

ううん、愛玩動物に愛情を注ぐ人は多い。

けれど彼はそれすらしない。


「妻、というのはね……」


カツンと彼の靴が床を叩く。

周りには小雪と弥生がいたのだけど、そのどちらかの息を呑む音が聞こえた。
< 257 / 396 >

この作品をシェア

pagetop