重なる身体と歪んだ恋情
この考えに間違いないはずなのに、
「……ダメ、ですか?」
千紗の口から思いがけない言葉が零れた。
「同じ、部屋ではダメですか?」
繰り返す言葉に、聞き間違いでないことを理解した。だからといって、どう返事をすればいいのか……。
「ダメ、ではないですが……」
私のそばでは眠ることすら出来ないはずだ。
それほどのことを、私は彼女にしたのに――。
「では、このまま同じ部屋で。
だって、私たちは夫婦なのでしょう?」
真っ直ぐに、怯えることなく私を見てそう言った千紗に、返す言葉を完全に失ってしまった。
『夫婦』?
戸籍上ではそうだろう。
けれどこの婚姻は政略的なものに過ぎない。
私は、金で彼女を買ったに過ぎないのに――。
「座ってください。奏さん」
そう言って私の手を引く千紗。
そして私を椅子に座らせて、
「お夜食はこのお部屋に運んでもらいましょう。そうホテル側に言ってきますので」
彼女は静かにこの部屋を出て行った。