重なる身体と歪んだ恋情
何を、考えているのか。
あの火事で負った傷が彼女に罪悪感を植え付けているんだろうか?
それとも――。
「有り得ない」
浮かぶ考えに頭を振る。
どうしてこうも人間は自分の都合のいいように考えるのか。
私も例に漏れずおめでたい人間のようだ。
それが証拠に、2人で取る食事に会話はない。
屋敷にいれば、司なり弥生なりが声をかけてくるが、彼女が部屋で食べることを選んだから給仕の声すら聞こえない。
「あ、あの、お水、注ぎましょうか?」
「ええ、お願いします」
あったとしてもこの程度だ。
まだ、夜は長いというのに、
息が詰まりそうになる――。
「それで、明日の朝食はいかが致しましょう?」
食器を下げに来た給仕の声にビクッと揺れる彼女の髪。
「あ、その、明日も――」
「下で。うちのものが和食をと頼んでいたはずですが?」
私の声に千紗は振り返り、給仕は頭を下げた。
「承っております。では、その通りに」
そう言ってワゴンを押して彼はいなくなった。
訪れる静寂。
「あ、あの……」
遠慮がちな彼女に「なにか?」と本を読みながら答える。
「お部屋でなくて宜しいのですか? 足が……」
「歩くことも必要だと医者に言われてますから」
そう答えると彼女は少しホッとしたように「そう、ですか」と呟いた。