重なる身体と歪んだ恋情
「あの……」
「はい?」
居場所がないのか、彼女は私の隣に少し離れて座る。
「なんの、本なんですか?」
「ただの雑誌です。新進気鋭の新人作家が本を作ったとか。司が持ってきたので」
「如月が?」
その名前に彼女は興味を示すように本を覗き込む。
「なかなか興味深いですよ。言葉使いも今までとは違って読みやすい。考えも奇想天外。古い頭しか持たない古参作家からは非難を浴びてるようですが若者には受けるのが頷ける」
「へえ……」
彼女の髪が、私の頬に触れる。
髪を耳にかける指がかすかに私の肌を掠めた。
「――あ、ごめんなさ」
「誘ってるのですか?」
「え?」
離れようとする彼女の肩を掴めば、私の手からは本が床にバサリと落ちた。
私を見る千紗の目は驚きと恐怖が同居していた。
「さ、誘うなんてっ」
「そうですね、我々は夫婦なのだから当たり前のことですよね」
クスリと笑う私の声に表情どころか、その体までも強ばらせる千紗。
「でも、私はこの通り怪我人でして」
「そ、そうですね、もうお休みになった方が――」
「だから、あなたからしてください」
「――え?」