重なる身体と歪んだ恋情
その日、病院には如月と一緒に出かけた。

ふたりで歩けば遠くも感じないし、疲れもない。


「あ、金木犀の香り」

「そうですね。もう秋ですから」

「どこにあるのかしら?」


歩きながら見上げたけれど金木犀は見つからなかった。

金木犀の香りは好きかもしれない。

だけど、病院独特のにおいはやはりダメでドアを空けた瞬間に思わず顔を歪めてしまった。

そしてお祖母様の病室に行きドアを開ける。


「お祖母様――っ!?」


瞬間、むせ返るような薔薇の香りに思わず言葉を詰まらせてしまった。


「千紗さん、どうかなさったの?」

「千紗様?」


驚くふたりの声に「大丈夫」と返して何とか笑みを作る。

そして窓を開け空気を入れ替えて、もう一度笑って見せると如月は安心したのか、小さく頭を下げて病室からいなくなった。


「そんなに香るかしら? その薔薇」

「それはもう……、お祖母様は気になりませんか?」


そう聞くとお祖母様は「そうねぇ」と首を傾げてそれから「あ」と跳ねるように声を上げられた。


「千紗さん、病院には行かれたの?」

「……今、来てますけど」


入院生活が長くて、少し混乱なさっているのかしら?

困惑する私にクスクスと笑うお祖母様。


「そうではなくて、貴女が病院へというお話よ」

「私が、ですか? でもやけどはもう治りましたし別におかしい場所なんて……」


やけどが治ってるといっても傷跡は残ってる。

そのことをおっしゃりたいのかしら?

お祖母様の意図することを理解出来ない私に、お祖母様は手招きをする。

だからそばに行って彼女の居るベッドに腰をおろして耳を寄せた。


「おめでた、なのでは?」

「……え?」


クスクス笑うお祖母様の声だけが耳に残る。


「食欲は? 眠気が強かったりしてないかしら?」

「……それは」


待って。

考えが追いつかないの。

おめでたって――。


「最後に月のものが来たのはいつなの?」


いつ?

いつだった?

ちょっと、待って。

嘘よ。

あり得ないわ。

だって、そんな――。

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