ファーストラブ
先生は嬉しそうだった。
笑顔に、少し年輪を重ねた目尻の皺が刻まれる。
「好きだったんですよ」
「先生も、二宮のことは気に入っていたぞ」
そういう意味じゃないんだけどな。
「今は大学生?」
私は大学の名を告げた。
先生はよく頑張ったな、と感嘆してくれた。
「……先生、好きだったんですよ」
私はもう一度繰り返した。
先生は答えに窮したように、左手で頬を掻く。
薬指にキラキラと輝くプラチナの指輪があった。
「ありがとう」
その指輪が悔しい。
先生は私に気づかせるように、左手をあげたのかもしれない。
「いい想い出」
「だな」
今さら中学生には戻れない。
先生が指輪をしていなかった頃に戻っても、私の恋は成就しなかった。
だから。
さようなら。
私は淡い恋の想い出に別れを告げた。
―おわり―
