魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
「やばいやばいやばいやばい、チビってあんなに可愛かったか?や、超絶可愛いんだけど…また可愛くなったよな。やべえ…ケダモノになっちまいそうだ…」


気を静めるために冷水で顔を洗って鏡を見つめていたコハクが何度も深呼吸をして部屋に戻ると、いつの間に部屋に入ってきたのか、ラスの隣にはデスが膝を抱えて座り、ラスに頭を撫でてもらっていた。


「おいデスこの野郎、チビの隣は俺のもんだぞ」


「デスに島のことを話してたの。デスも一緒に泳げばいいのにね」


「……泳ぐ…?……俺…日差し……駄目…」


太陽の下を歩く時は常に日傘を差すほどの太陽嫌いの死神が拒んだことを喜んだコハクは、以前デスからラスを愛していることを聞いてはいたが、害は無さそうなのである程度のことは許してやっていた。

今も頭を撫でてもらっているだけで嬉しそうにしていたので、むっとなりつつも真向かいに座ってまたちらちらとラスを見ていたのだが、ラスは店の店員が運び込んでくれた服の山の中から水着を見つけると、それをデスに見せた。


「見てこれ可愛いでしょ?店員さんがワンピースよりもビキニの方が似合うって言ってくれたから、これにしたの。後ね、浮き輪も買ったんだよ。私泳いだことないから」


白の布地にピンクの可愛らしいフリルがついたビキニを見た途端、また爆発してしまいそうになったコハクが膝の上にクッションを乗せて前かがみになると、ラスはそれに気付かず胸にトップをあててデスに見せた。

想像力の乏しいデスは、ラスがそれを身につけている姿を想像できなかったが、魔王は別問題だ。

脚をばたばたさせて悶絶しているコハクの様子が相変わらずおかしいことを最初は心配していたラスだったが、時々コハクがこうなることはよくあったので、敢えて無視をしてキャリーバッグに夏物だけを詰め直す。


「グラースやデスも一緒に連れて行きたいけど、新婚旅行だし、デスたちはお留守番しててね」


「……うん。……何かあったら……すぐ…呼んで…」


「うん、わかった。ありがとう。コー、お仕事終わって良かったね。今日は久々にゆっくりできそう?」


「え?あ、ああ…まあ…ゆっくりできるけど…俺…この拷問に耐えられるかな…」


「?」


きょとん顔のラスの唇から目を離せないコハクは、新婚旅行に出発するまでお預けのままだ。

さて今夜をどう乗り切るか――

乗り切ることができるのだろうか?
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