魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
一緒にゆっくり食事を楽しんだのも久しぶり。

細長い食卓は何十人もが一気に食事をできる広さだったが、はしゃいだラスはぴったり隣に座って嬉しそうにスープを飲んでいた。

…コハクの膝の上には、ラスの左手。

いつもはこんなことをしてこないのに、こうして一緒に居られることをとても喜んでくれていることに感激しつつも…魔王は暴発寸前だった。


「南の島からリロイたちやお父様たちに絵葉書送れるかなあ?お母様はそろそろ赤ちゃんを生むからちょっと心配」


「チビの妹か弟が王国を継ぐんだよな。生まれたって知らせが来たらすぐ見に行こうぜ。カイもちょっと気恥ずかしいだろうな、チビとは20近く歳が違う子供だからさ」


にこっと笑ったラスにまた心臓がばくばくしてしまい、完全に壊れてしまっているコハクは、食事を終えたラスが膝に上がってきたので背中を支えてやりながらも、ラスから香る花の匂いに眩暈がしていた。



「コー、目がぶるぶるしてる。体調が悪いなら出発遅らせてもいいよ?お医者様呼ぼうか?」


「や、心配かけてごめん、違うんだ。俺さ…今すっげ欲情してるんだ」


「……え…」



最初何を言われているのかわからずにきょとんとしていたラスだったが、意味を悟ったのか、じわじわと顔色が赤く変わってきた。

だが膝から降りずにまだ震えているコハクの赤い瞳を見据えて、瞼にちゅっとキスをした。



「ずっと…してないもんね。コーが今日ずっとおかしかったのはそのせいなの?」


「ん、まあ…そうなんだけど…。俺さあ、実は初恋ってしたことがなくって。チビのことは気が付いたら愛してたって感じだし。段階すっ飛ばした感じなんだ。でも今は…最近ちょっと離れて禁欲生活してたら…チビがいつも以上に可愛く見えて…これが恋なのかなあって思ってる」


「コー…。うん、私も初恋の人はコーだよ。コーがずっと私の傍に居てくれたんだから。この赤い瞳も大好き。コーの唇も…大好き」



唇に指でつっと触れてきたラスを抱き上げて螺旋階段を上がると、コハクの首に抱き着きながらも部屋に着いて何をするのかをコハクに問うた。


「こ、コー、新婚旅行に行くまでは…」


「ん、わかってるって。今夜まで禁欲生活だろ?ったく……明日になったら…無茶苦茶にしてやる」


耳元でこそりと囁いたコハクの低くて甘い声にぞくっとしたラスもまた…明日を楽しみにしていたことは、秘密にしておいた。
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