魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
城に着いた頃、コハクの様子がおかしいことにようやく気付いたラスは、ルゥを抱っこして螺旋階段を上がりながら手を伸ばしてコハクの頬に触れた。


「コー、さっきからおかしいけど、どこか悪いの?どこか痛いの?」


「や、だ、大丈夫だって。あんま俺に触んねえ方が…爆発しそうだからさ」


ラスの水着姿を見てからというものの、心臓がばくばく音を立ててうるさくて何度も胸を叩いていたコハクは、黒髪をかき上げながら先に部屋に入った。

お腹を空かせたルゥがぐずりだしたので、ソファに座って白いワンピースのボタンを外してお乳を与えていると、コハクの様子はますますおかしくなって、何故かベッドに潜り込んだ。


「コー?やっぱりどこか痛いの?コーが病気なんかしたことないからどうしよう…」


「ど、どこも悪くねえって。強いて言えば…アレがずきずきするって言うか…」


「あれ?あれって…なあに?」


「なんでもねえ!ちょっと疲れたから横になってるだけー。なあチビ、どこに行きたい?どこでも連れてってやるよ」


「ほんと?じゃあ…海に行きたいな。水着も買ったし、コーのも買ったんだよ。ルゥにはまだ早いからルゥのは買ってないけど」


「海かー、じゃあ暑いとこだな。こっちは北だから、南に小さい島が集まってるとこがあるからそこに行くか。じゃあ船で行こうぜ」


「船っ?わあ、私船に乗るのはじめて!ルゥちゃん、パパとママと3人で明日から新婚旅行だよ。一緒に新しい世界を沢山見ようね」


ようやく治まってきたコハクはベッドから抜け出て本棚から地図を取り出すと、テーブルに広げてラスと一緒に覗き込んだ。

小さな島が連なっている列島は常夏で、気候が良いが、なにぶん大陸からかけ離れた場所にあり、また時々空を飛ぶ魔物が襲ってくることもある。

もちろん結界を張って船には近づけさせるつもりはないが、そうなると…ラスと2人きりで島を独占できて、いい雰囲気になることは間違いないだろう。


魔王の頭の中はもうピンク色の妄想まみれで、お乳を飲み終えたルゥの背中を叩いてげっぷを出してやっているラスの隣にじわりと座り、さりげなく肩を抱いた。


「船で数日かかるけど、船旅もいいもんだぜ。港にでかい船を停泊させてあるからそれで行こう。専属のコックたちも乗ってるし、ゆっくり過ごせるぜ」


喜びに満ち溢れた表情で見上げてきたラスのきらきらした大きな瞳に見惚れたコハクは、ラスの頬にキスをするので精一杯で、またうるさく高鳴る胸を何度も叩いて落ち着けさせて大きく深呼吸をした。
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