魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
ゼブルは休むことなく逃げ続けていた。

デスは死神の鎌を手に、飽きることなく疲れることなく休むことなくゼブルを追い続けていた。


「く…っ、なんなんだあの死神は!これではあの女をいたぶる暇も…!」


「………ラスには……近付けさせない…」


すぐ背後で押し殺した低い声が聞こえた。

ぞくっと身震いしたゼブルは目立ってしまう荒野ではなく賑やかな街へと逃げ込んでデスを振り切ろうとしたのだが…自分の行動を読んでいるのか、デスは決まって眼前に立ち塞がる。

袋小路に追い詰められたゼブルは息を乱しながら切れた頬から流れ落ちる血を指で拭って見つめた。


「何がお前をこんなにも駆り立てているんだ?お前は今回の件には関係ないはず」


「………ラス…大切……」


「コハク様の女だからか?それとも横恋慕なのか?はっ、死神のお前が?笑わせるな!」


柄の長い死神の鎌は接近戦に恐らく弱い――

自ら斬り込んでいったゼブルは、長剣を手に死神の鎌を握っている左手を狙って高速で薙いだ。

だがデスはひらりと後天してそれを避けると、着地するよりも前に鎌を振るって半月円の黒い風を作ってゼブルの胸に刻むと、落雷を受けたかのように全身が痺れたゼブルは膝をついて胸を押さえた。


「ぐふ…っ」


「……ラス……元に…戻せ…」


「ぅう…っ、も、元に戻せば…お前はもう俺を追わないか…?」


恐ろしい――

コハクも恐ろしいけれど、いつもぼんやりしていた死神が本気を出せば魔界などいつでも手に入れることができるのではないか、とゼブルに思わせるほど、デスの漆黒の瞳は殺意に濡れていた。


「……魔王と…相談……する…」


「ふふっ、女に惑わされるなどあってはならない!老婆になった愛しい女をコハク様は見つけられると思うか?今頃枯れ枝のような姿になってさ迷っているに違いな…」


「…死ね」


赤い月を背負いながら冷たい瞳で見下ろして死神の鎌を振り下ろそうとしたデスの攻撃を避けられるかどうか――

ゼブルが砂を握りしめてデスの顔に向けて放つと、デスの動きを一瞬止めることに成功した。


瞬時に魔界から抜け出す穴を作ったゼブルは転がるようにして身を放り投げてその場から逃げ去ると、長いトンネルのような暗闇を全力で走って明るい行き止まりに飛び込む。


「な…っ、ゼブル!貴様…!」


「おやおや…見つけてしまったのですね」


血まみれのゼブルが微笑む。
< 144 / 286 >

この作品をシェア

pagetop