魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
「ああもう…頭が痛い…。僕は元々こういうの向いてないのに…」


小休憩を挟んで政務室へと戻ったリロイは、額を押さえてうめきながらソファに寝転がった。

こんな姿は官僚たちには見られてはならないのだが――まだ興ったばかりの国なために各々の理想論がぶつかっていつも会議は紛糾してしまう。

最終的に判断を委ねられるので、それぞれの主張をしっかりと把握してから決断を出さないと大変なことになってしまうだろう。


「ただの平民出の僕が王様なんかになっちゃいけなかったんだ」


ゴールドストーン王国で乳母をしていた母親のおかげのようなもの。

始終ラスの傍に居て遊び相手になって、恋をして……白騎士を目指してあの少女のために戦うことが夢だった過去。

あの時は戦えることが本当に嬉しくて仕方がなかったのだが…最近はろくに外出もしていないし、剣の腕も鈍っているだろう。


「息抜きをしないと息が詰まってしまう…。少しだけ外に出てもいいか聞いてこようかな」


最近据えた宰相は柔軟な対応のできる同じ年頃の青年を選んだ。

王立の学校を首席で卒業したらしく、新天地を目指してやってきたと笑顔で言った青年を一目で気に入ったリロイは、彼に許しを請うて息抜きをさせてもらおうと脇に置いていた剣を持って起き上がろうとした時――


「よう小僧。いい感じに腐ってるじゃねえか」


「!?魔王…!?ここには…来ないんじゃなかったのか?」


ノックも無く中へ入ってきたのはルゥを抱っこした真っ赤な瞳の魔王と言われた男。

すらりとした体躯は相変わらずで、魔法使いと言うよりも武人に見える。

かつて魔王城で刃を交えた経験のあるリロイは、コハクの腕前に歯噛みして遊ばれて…この男を超えなければ真の勇者とは言えないと言い聞かせて、コハクが行方不明の2年間を戦い抜いて来た。

そのコハクの後に続いて入って来たのはラスやグラース、そしてティアラだ。


立ち上がったリロイはそわそわしているティアラの前に立つと、首を傾げて顔を覗き込んだ。


「ティアラ?早かったね、もうちょっとゆっくりしていてもよかったのに」


「リロイ…あの…お願いがあるの。聞いてもらえるかしら」


ティアラからのおねだりなど滅多にない。

リロイは目を丸くしてソファに誘導すると、にやにやしているコハクを見て嫌な予感がざわざわした。

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