魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
コハクがにやついている時は注意するに越したことはない。

現にじわじわとにじり寄ってくるコハクから逃げるように後ずさりをして身構えたリロイは、油断なくコハクから視線を外さずにティアラを背後に庇った。


「一体何があったの?こいつ…悪巧みをしている時の顔だ」


「悪巧みっていうか…あの…リロイ、私みんなと妖精の森に行きたいの。それであなたに許可を貰おうと思って…」


「それとこいつがにやついてるのは関係あるの?魔王、それ以上僕に近付くな」


「なーんだよ、せっかくお前の気苦労を減らしてやろうと思ったのにさー。なー、チビ」


「うん」


何も事情がわかっていないなりにこっくり頷いたラスは、コハクを全面的に信用している。

会えばいつもリロイをからかって遊んでいるが、頼りになる時は本当に頼りになる男なのだ。

だがコハクのしようとしていることは全然わかっていなかったが、ルゥと一緒ににこにこしていると、リロイは諦めたように肩で息をついて腕を組んだ。


「それで?僕ににじり寄っている理由は?」


「ちょっと髪の毛1本よこせよ」


「…は絶対いやだ。…おい、それ以上近付くな!」


「まあまあ。てめえ大人しくしねえと痛い目に遭わせんぞ!」


最初は余裕ぶっていたコハクだったが、ちっとも歩み寄ろうとしないリロイにとうとうキレて羽交い絞めにすると、金の髪を1本無理矢理抜いてぱっと手を離す。

髪の毛を抜かれたリロイは、魔法使いがこうして人の爪や髪の毛を使って呪術をしていたことを知っているので、今度は逆にコハクににじり寄って凄む。


「何をする気だ!?」


「こうゆうことー。チビー、かっこいい俺をよーく見てろよ-!」


抜いたリロイの髪の毛に何事か呟いて手を翳したコハクは、精神集中をしなければならないのに好奇心に大きな瞳を光らせているラスをちらちら見ながらかっこいい自分を猛アピール。

ラスの膝から降りてラスと同じようなきらきらした瞳で膝に抱き着いて見あげてくるルゥにもかっこいいパパを猛アピールしたコハクは、呪文をかけたリロイの髪の毛を床に置いて、指をぱちんと鳴らした。


「ほーら、出てこーい」


「!?な……なんだ、これは…!」


リロイが絶句する。

髪の毛は、むくむくと膨れ上がって人の形をとると、リロイそっくりになってにこりと笑いかけた。
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