魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
働かされっぱなしのドラちゃんは、珍しく文句のひとつも言わずにバルコニーまでラスたちを迎えに来て、そして命令通りクリスタルパレスの外に止めてあた馬車までひとっ飛びした。

それもこれも理由は…


「よしよし、偉い偉い。後でブラシで身体擦ってあげるね」


ごろごろ。


喉を鳴らして瞳を細めるドラちゃんの態度にため息を漏らした者が2人。


「このエロドラゴン…!てめえ後で痛い目に遭わせてやるからな」


「ブラシで擦ってほしいなら後で私がしてやるが」


『ベイビィちゃんがいい。魔王に協力してやっているのはベイビィちゃんのためだ』


豪語してとげとげが生えた太い尻尾でどすんと地面を叩いたドラちゃんの威圧的な態度にまたコハクが詰め寄ろうとすると、ラスはマイペースにさっさと馬車に乗り込んでしまった。

コハクとドラちゃんの諍いは毎回のことなのでもう気にしないようにしているのと、早く妖精の森に行ってベルルが産んだという赤ちゃんとベルルの夫を見たいからだ。


「コー、早くっ。あとルゥちゃんがぐずってるから抱っこしてあげて」


「はいはいただいま!ふん、お前後で覚えてろよ」


低い声で呟いてドラちゃんを脅しているコハクは本当に相変わらずで、リロイは旅をしていた時のように御者台に乗り込んで手綱を握った。

そうすると様々な思い出が蘇ってきて、ラスに夢中だった日々も走馬灯のように蘇る。

だが今はラスに恋心はなく、遅れて隣に乗り込んできたティアラに笑いかけて肩を並べると、馬車を出発させた。


「魔物が出たら僕に任せて。多分腕は鈍ってないと思うから」


「ええもちろんお任せするわ。魔王が行方不明になってからの数年間、あなたが魔物狩りをしていた話はとても有名なのよ。その顔…知らなかったの?」


きょとんとしているリロイは、かつて鬱憤を晴らすために魔物狩りをしていた時期がある。

それはものすごい量で、治安が守られてたと喜ぶ国民とは裏腹にリロイの心は曇りっぱなしだったが――


「そっか、それは知らなかったけど…“ドラゴンテイマー”にしろ、どうにもそういう尊称だけが独り歩きしてるような…」


「それでいいのよ、誰にも迷惑かけてないでしょ?逆に私は魔物がいつ現れるのかと楽しみにしてるの。戦ってるあなたはとても…その…かっこいいから」


「ティアラ…」


いい雰囲気になっていると、馬車の中からコハクの大きな咳払いがした。

魔王、やっかみ。
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