魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
「ちぇっ、俺だってチビとイチャイチャしてえのに」


そう言いながらラス…いや、ラスの隣をじっとりした瞳で見たコハクは、早速喧嘩を吹っかけた。


「おいデス。そこは俺の定位置じゃねえか?お前はこっち!俺がチビの隣!」


今まで存在感の無さに拍車をかけていたデスは、膝を抱えてラスの隣に座っていた。

しかも首をふるふる振って拒絶の意を示すと、コハクの赤い瞳が鈍く光る。

それを見たラスは、ぽんぽんと膝を叩いてすぐ拗ねてしまうコハクに笑いかけた。


「コー、こっちにおいで。膝枕してあげるから、ルゥちゃんをお腹の上に乗せてあげてね」


「やった!ほらどけって!」


子供以上に子供っぽいコハクが顔を輝かせると、ラスがそう言ったからにはどくしかないデスは、苦手なグラースの隣に仕方なく座って顔を逸らす。

そういった態度を取られるとどうしてもからかってしまうグラースは、大きくなった腹を撫でながらデスの耳たぶを軽く引っ張った。


「お前なら私の腹の中の子がどんな子なのか知っているんじゃないのか?」


「………そういうの……教えられない…」


「頑ななんだよなー。俺もチビの腹ん中の子が女の子だったら今から小躍りしてすぐ女の子用の服とかおもちゃとか取りそろえるのに!」


男でも女でも一向に構わないラスはにこにこしながらコハクのさらさらの黒髪を撫でて御者台に繋がる小窓からこっそりリロイたちを除いた。

2人肩を寄り添ってとても仲が良く見えて、視線に気づいたリロイが振り返ったので慌てて首を引っ込めてコハクの腹の上でごろごろしているルゥの髪も撫でてやる。


「私どっちてもいいしいつか女の子産まれるよ。沢山産んであげるから」


「よしじゃあ今から取り揃えておくかー!チビ、魔物が出たら俺に任せろよ。あーんな腕が鈍った元白騎士なんかにゃ負けねえからな!」


コハクが大声で喧嘩を吹っかけると、それが聞こえたリロイはむっとなって目を尖らせた。


「僕だって負けない。あの時は魔王に負けたけど、あいつだって腕は鈍ってるはずなんだ。今度は絶対負けない」


「ええそう信じてるわ。リロイ、そろそろ休憩を取りましょうよ。ラスとサンドウィッチを作ったの」


「ラスが?進歩したなあ」


それぞれ成長している。

母となったラスは特に成長が著しく、はにかんだリロイは手綱を絞って馬車を止めた。
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