魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
案内された宿はログハウスで、中には暖炉もあって全体的にあたたかい造りになっていた。

ただ…宿のオーナーもコハクを見てぎょっとしたので、ラスがあちこち見て回っている間にコハクは親指大の金の塊をオーナーの前に置いてひそりと囁く。


「俺たちは観光客ではじめてここに来た。けど皆が俺の顔を見て驚く。なんなんだ?」


「い、いやあ…何も。あなたたちがあまりにもお美しいから皆びっくりしてるんですよ。どうか滞在中楽しんで下さい」


瞳を逸らして合わせようとしない年配の男のオーナーから情報を聞き出すことができずに割り当てられた部屋に行くと、ラスは暖炉の前のソファに座ってぬくぬくしていた。

暖炉の中で爆ぜる炎に見入り、木の匂いのする部屋を気に入ったのか、いつも以上ににこにこしてコハクを手招きした。


「コー、ここ素敵。窓から雪が降ってるのが見えるよ。後で外に見に行くでしょ?」


「ちょっとだけな。今日はゆっくりして明日うろうろしようぜ。…俺ちょっと疲れたかも」


コハクが珍しいことを言ったので、目を丸くしたラスはルゥをソファに下ろしてコハクに駆け寄った。


「大丈夫?疲れちゃったの?た、大変っ、私お風呂入れてくるからコーはベッドで寝てて!」


「あ、チビ、そんな心配しなくてもって…もう聞いてねえか」


部屋に備え付けのバスルームに駆け込んでいったラスに苦笑したコハクは、言われた通り大人しくベッドに横になり、奇妙な住人の反応を思い返す。

…どうやら異界の風とは関係ないようだが、それにしてもいくらこういった反応をされることに慣れているとはいえ、何か根拠があるはずだ。

自分はともかくラスが楽しめないのは嫌なので絶対原因だけは探っておこうと決めると、ラスが戻って来ないことに気付いて身体を起こして様子を見に行った。


「チビ、どした?」


「あ、コー!ここ…温泉なの!蛇口から勝手にお湯が出てるの!見て!」


桧のバスタブの前に立っていたラスは、両手で熱いお湯を掬って嬉しそうにコハクに見せた。

この山は活火山で、地下にはマグマが溜まっているためにあちこちから温泉が湧いている。

コハクが見ている中ラスが早速服を脱いで入ろうとしたので、真面目な表情が一気に吹き飛んだ色ぼけ魔王、絶叫。


「俺も一緒入る!いちゃいちゃする!」


ラスが表情を緩めてこくんと頷き、コハクに抱き着いた。
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