魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
ひょこひょこ脚を引きずりながらアーシェに引っ張ってもらって案内された部屋は、壁一面にアーシェが作ったと思われる工芸品が並べられている。

そのほとんどがラスの好みで、痛みを忘れて感動すると、部屋の真ん中に置かれていた水晶の像に一際高い歓声を上げた。


「きゃあーっ、すごい!女の人に羽が生えてる!きらきらしててすごく綺麗!」


…アーシェは像の回りをぐるぐるしながら喜んでいるラスをじっと見つめていた。

そうしているうちに途端にアイディアが降ってきて、引き出しから掌ほどの大きさの水晶の塊を取り出すと、一心不乱に掘り始めた。


「ねえ、何してるの?何か作ってるの?」


「うるさい。少し黙っててくれ」


コハクにこんな冷たい態度を取られたことがないので、なんだか少し新鮮な気分になったラスは、アーシェの隣に腰かけてその作業を穴が空くほどじっと見つめてアーシェの手元を狂わせそうになった。


「…見ないでくれ」


「それは無理。ねえ、何を作ってるの?ヒントをちょうだい」


「…見ていればわかる」


それからはラスが話しかけても返事がないほどに集中したアーシェの横顔は本当にコハクそっくりで、うろついてはいけないと注意を受けたにも関わらず、勝手にあちこちを探って救急箱を見つけると、勝手に治療をしてその場から離れてダイニングに向かう。

男の独り暮らしなのか、ダイニングは使われた形跡がなく、勝手にヤカンに水を入れてお湯を沸かすと、インスタントのコーヒーを見つけて2人分作ると、アーシェの元に戻った。


「はいこれ。…アーシェ?」


返事はない。

だが徐々に球状だった水晶の塊が形を成していき、1時間後には完成すると、アーシェはそれをラスの前に置いた。


「真ん中が球状で、左右に羽が生えてる…。可愛い!もしかして…これ私にくれるの?」


「やる。あんたを見てたら閃いた。…ごめん、治療するの忘れてた」


申し訳なさそうに頭を下げたアーシェの姿がコハクと重なり、嬉しさのあまり抱き着いたラスは、アーシェの頬にキスをして顔を真っ赤にさせた。


「や、やめろ!」


「これありがとう!あのね、さっき翼の生えたリングも買ったの。アーシェが作ったんでしょ?」


ラスがコートのポケットから小箱を取り出して中を見せると、アーシェはリングを手に取って頷いた。


「翼が生えてるやつは大抵俺の作品なんだ。…あんた…戻らなくていいのか?」


はっとなったラスが慌てて立ち上がると膝に力が入らずによろけた身体をアーシェが支える。


2人が、見つめ合う。
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