魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
その後アーシェはあちこち部屋を見て回りたいから、とひとりで居なくなった。

芸術家は変わり者が多いので、案内をしたかったがそれを断られたコハクは、隣でちらりと視線を送ってきたデスの頭を軽く小突いて小さな声で話しかける。


「…で?あれから何か変わったことは?」


「……ない。………そっちは…」


「俺は気配を感じてから結界を張ってたから何も感じなかったけど、お前関係…じゃねえよな?やっぱ俺関係か?」


「………魔王…人気者…。……魔界に住んでる連中……魔王を…欲しがってる…」


「おいおい気持ちわりぃこと言うなよな。あいつらは俺を“本当の魔王”に祭り上げて暴れてえだけだろ。そんなのいやだね。俺は世界征服とか暴れるとか、そういうのにはもう興味ねえんだ。お前、どいつだと思う?このままだと…チビにも被害が及びそうで、対策しとかねえと不安なんだ」


デスはしばらく考え込んだ後――魔界ではほとんど人づきあいがなかったので首を振ってラスが一生懸命手紙を書いている姿を見つめた。

魔界にはリーダーと呼べる者が居ない。

皆が好き勝手に生きて暴れて、力が強い者はそこそこ居るが、コハクが現れてからというもののその力に魅了されて、コハクを魔界の王にと声を上げる者は多かった。

力を持つ者に純粋に憧れて崇拝するので、コハクにも崇拝者が数えきれないほど居たが――コハクは地上に戻って来た。

ラスの隣に――


「……魔王……もう…魔界…行かない方が…いい…」


「や、俺ももう行く気ねえけど、魔界から俺目当てでやって来るつもりなら、俺はそいつを殺す。あいつら姑息な手段をよく使うし、俺はいいけどチビが…ルゥが…」


ようやく大切でかけがえのないものを手に入れたコハクにとっては、ラスとルゥは弱みだ。

今まで弱みなどなかったので正直いって今から魔界からやってくる者を見つけ出して殺して、沈静化を図りたいというのが本音だが…


「多分…相当レベルの高い奴だよな」


「………うん…多分…」


「お前よりもか?」


「………うん…多分…」


重たい空気が流れた。

普段はそんな空気を読みもしないラスが顔を上げると、深刻な顔をしている2人を見てペンを置いてコハクとラスの間に可愛いお尻をねじ込んで無理矢理真ん中を陣取って座った。

にこにこするとようやくコハクの顔にも笑みが上り、ラスを膝に乗せたコハクはぎゅうっと抱きしめながらラスに見られないように赤い瞳をぎらつかせて抹殺を誓った。
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