魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
その後ラスはキッチンに駆け込んだ。

2人の間に流れる奇妙な空気に気付いていた。


「私にはよくわからないけど…美味しいもの食べたらきっとまた元に戻るからコーの好きなパンケーキ作ってあげよっと」


料理はそこそこできるようになったが、上手いというレベルにはまだまだ程遠い。

焦げ目はつくし、卵の殻は入るし――それでもコハクは美味しいといって全部食べてくれる。


案の定今回も卵の殻が見事にダイブしてしまい、ため息をついていると背後から笑い声が聞こえた。


「何してるんだ?」


「アーシェ!お料理してるんだよ。パンケーキ食べるでしょ?お腹空いてるでしょ?ちょっと待っててね」


厨房係の改造済みの魔物たちがはらはらしながら見守っている中、ラスは危なっかしい手つきでフライパンを握って料理を始めた。

一通り部屋を見て回ったアーシェは丸椅子に座ってその様子を観察する。


王女だったラスは今までほとんど料理を作ったことがないとコハクから聞いていたので、たどたどしい手つきは納得できるし、共感できる。

アーシェはかなり器用な方だが料理はからっきし。

興味がないから、というのが大多数だが、ラスよりは上手に作れるのでは、と思ってしまうほどにたどたどしかった。


「パンケーキの上にラズベリージャムとかチョコとか生クリームとか蜂蜜とか乗せて…うーん、お腹空いてきちゃった」


「ちょっと貸せよ、それ焦げてるぞ」


見ていて我慢できなくなったアーシェがラスの手からフライパンを奪い取ると、やはりラスよりもうまく操れていることににんまり。

そしてラスは頬をぷっくり。


「ひとりでできるもん!」


「ちゃんと返すって。…俺しばらく住ませてもらうことにした。この街を俺の作品で溢れさせてやるんだ」


「ほんとっ?アーシェの作品すっごく綺麗でうっとりしちゃう位なんだからきっとみんなも喜んでくれるよ!わああどうしよう、嬉しくなってきちゃった!アーシ、これもう蜂蜜かけてもいい?」


次々と焼けるパンケーキを皿に盛って彩りを考えながら様々なソースをかけていくラスは楽しそうで、仕上げをラスに任せると、それをカートに乗せてコハクの部屋まで運びこむ。

やはり2人は深刻な顔をしていたが、ラスを見るとすぐにコハクの顔には笑顔が戻り、10枚以上あるパンケーキを見て苦笑。


「また沢山焼いたんだな。ま、俺が全部食うけど!」


「………俺が…全部…食べる…」


言い合いが始まり、ラスがころころ笑うとさらにヒートアップして笑いに包まれる。
< 87 / 286 >

この作品をシェア

pagetop