金色のネコは海を泳ぐ
「ちょ、待って!な、なんか違う方法を!」

あの日から……オロはあらゆる傷をルーチェに負わせた。

引っ掻き傷、すり傷、火傷に打撲……捻挫までさせられた。オロに追い掛け回されて、家の近くの湖に落とされて風邪も引いた。

もちろん、それらはすぐにオロが呼んでくるブリジッタに治してもらえる。そしてその度に、ルーチェの使える呪文は増えていった。

つまり、だ。ルーチェは身を以って学んでいる。トラッタメント――治療――のコツ、とやらを体験することは、教科書をただ読んで文字通りに鍛錬を積むよりも効果的だった。

ルーチェは健康だけが取り柄――というと悲しいが――な娘だった。両親がクラドールで、家族の健康管理はバッチリ。風邪を引いたことなど記憶にないし、大きな怪我をしたこともなかった。

最近では切り傷すらつくることはなく、トラッタメントを受ける機会もなかったのだ。

だが、骨折は……鉄バットは痛いだろう。いや、今までも結構痛かった。

「そんなのないわよ。ねぇ、オロ?」
「にゃー」

ルーチェは「ヒッ」と声にならない悲鳴を上げた。オロの「にゃー」はYESだと、最近気づいたのだ。

「ほら、覚悟を決めて、お姉ちゃん。オロがすぐにお母さんを呼びにいくからね?」
「にゃー」

そんなめちゃくちゃな。

治すから怪我をしろというのは無茶である。そもそも、怪我をしないように注意するのが普通だろう。

「治すので怪我をしましょう」と笑顔で言うクラドールがどこにいるというのだ!
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