金色のネコは海を泳ぐ
ジュストは泣きそうな顔でルーチェを見上げ、頬に手を当てて親指でなぞる。

「僕、まだ婿になれない?婿修行は、まだいっぱいある?全部やったら、婿にしてくれる?」
「ジュスト……」

ジュストは寂しいだけだ。一緒にいる時間が減っていても顔を合わせない日はなかったから。

だから、ルーチェに会えなくなるのが寂しいだけだ。

それだけ。

それだけ……あぁ、これも、もう何度繰り返し唱えたことなのだろう。

「ルーチェ、僕は人間に戻りたい」

ジュストはルーチェの胸に顔を埋めて、痛いくらいにルーチェを抱き締めた。

それは、ジュストの人間に戻れない苦しさを表すようにルーチェの心を締め付けた。

「わかってる、よ……?試験が終わったら、ジュストにかけられた呪文のことも、もっと調べられるから」

でもきっと、ジュストの呪文が解けるときは……

「ルーチェ、好き」

もう、同じ言葉は聞けないかもしれない。

「…………ジュスト」

ルーチェの呟きは静かな部屋に溶けて、2人はジュストがネコに戻ってしまうまで抱き合っていた。
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