金色のネコは海を泳ぐ
そんな胸の痛みを流すように紅茶を飲み込んだとき、玄関の呼び鈴が鳴った。

今日は診療所が休みの日。休日の朝にやってくる訪問客はいない。急患だろうか?

ルーチェは急いで階段を下りて、ドアを開けた。

「え、っと……?」

だが、目の前に立つ女性とその後ろに控える長身の男性に思わず固まってしまう。

くるりと綺麗に巻かれた金髪をひとつに結わえ、豪華な装飾を施された薄い桃色のドレスを来たルーチェより少し背の高い女性。

レースをふんだんに使ったスカートは地面についていて、素人目にも高価なドレスであるとわかったルーチェは恐ろしくなった。

汚れたら、どうするのだろう。いや、もう手遅れかもしれない。

胸元にはキラキラと輝くダイヤのネックレス。

少しキツい印象の顔立ちは、しかし、とても整っていて美人だ。瞳の色は、琥珀色……?ジュストより少し濃いだろうか。

「突然の訪問で申し訳ございません」

言葉を発したのは女性の後ろに立っていた男性だった。長めの黒髪はきっちりとセットされて、眼鏡の奥の瞳は冷たい。

「私、ルミエール王国女王側近を務めております、クロヴィスと申します。こちらが私の主、エミリー女王様でございます。こちらにジュスト第三王子がお世話になっていると聞き及びまして、伺わせていただきました」

とても冷静な、最低限の抑揚しかつけない声でそう言ってクロヴィスは頭を下げた。

「ルミエール……エミリー、女王……?」

ルーチェの掠れた声は、春風に乗って消えた。
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