ラララ吉祥寺
八時過ぎ、卵を落としたおじやを持って二階に上がった。
「拓馬君、具合はどう? 寝てるの? 入るよ〜」
返事を待たずに扉を開けた。
部屋の中は真っ暗で、どうやら言いつけ通り彼はあのまま寝入ったらしい。
電灯のスイッチを入れると、赤い顔でベッドに横になっている拓馬くんの姿が目に入った。
テーブルにおじやの乗った盆を置き、その傍らに歩み寄った。
額に手を当てると、まだかなり熱い。
でも幸いなことに、薄っすらと汗を掻き始めている。
わたしは、身体を拭くタオルと水分補給のポカリを取りに下へ戻ろうと、腰を上げかけた。
「かあ……さん……?」
とその時、呻くような掠れた声が聞こえて、わたしの身体に何かが纏わり付いてきた。
「えっ? どうしたの?」
突然襲われたわたしは、何がどうなっているのか、はっきりとはわからない。
「かあ……さん……」
母を呼ぶ呻き声がわたしの身体に熱く響く。
膝に纏いつくように、しっかりと彼の腕がわたしに抱きついていた。
子供というには大きすぎる、かと言って無下に突き放すには頼りない熱い両手。
わたしはその手を突き放すことが出来ずに、汗で額に張り付いた髪をそっと拭った。