ラララ吉祥寺
拓馬くんは、ベッドに起き上がると木島さんから受け取ったおじやをレンゲですくいながら食べ始めた。
「文子さんは下で夕食の片付けをお願いしますよ。
俺、こいつの身体拭いて着替えさせて下りますから」
「えっ? あ、はい」
彼の食べてる様子をもうちょっと見ていたいけど、熱いおじやを身体に入れたら更に汗が出るだろう。
そしたら着替えた方が良いよね。
確かに、木島さんに身体を拭かれる方が拓馬君も遠慮がないに違いない。
「じゃ、お願いしますね」
それでもちょっぴり後ろ髪を引かれる思いでのろのろとしていると、木島さんに睨まれてしまった。
「他人の文子さんでさえこうなんだから、世の母親が過保護になるのがよくわかりますね」
「もう、木島さんてば意地悪ですね」
「ほら、行った行った、ここからは女人禁制ですよ」
最後は背中を押されて、ドアを閉められてしまった。
世話を焼きたくなる気持ちが母性本能だと言うなら、わたしにも母になる資格があるのかな?
無邪気に母を求める彼を前に、その気持ちに答えたいと反射的に思ってしまった自分に驚いていた。
と同時に、そんな彼がわたしは羨ましかったのかもしれない。
ずっと長い間、母の愛を感じながらも素直にそれを受け止められなかった自分がとても屈折していたことに気付かされたというか。
母自身、とてももどかしい思いをしていたのだろうなと。