ラララ吉祥寺

すっかり洗い物を終え、わたしは手持ち無沙汰でソファに座ってテレビを付けた。

丁度ケーブルチャンネルが映って、吉祥寺美術館で開かれる山本太郎絵画展の告知が流れていた。

そうだ、来週からだった。

フランスで会った生き生きとした父の顔が思い出された。

自由気ままな生活を佳しとする父。

頑なに生きる場所を守り続けた母。

その生き方のあまりの違いに驚いたわたしだか、それを羨ましいと思ったわけではなかった。

わたしにも母の血が流れているのだ。

「太郎さんの絵画展、来週からですね」

気が付くと木島さんがわたしの隣に座っていた。

そう、そろそろ父がひょっこり現れる頃だ。

「なに考えていたんですか?」

「えっ? わかります?」

「心ここに在らずって感じでしたよ」

「珍しく母のことを思い出してました」

正確には、自分に気付くことがあると母を思い出す、という不思議に驚いていたのだけれど。
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