週末シンデレラ
車で三十分ほどかけて着いた係長のマンションは、オートロック式で洗練されたシンプルな造りだった。
エレベーターへ乗り込み、係長は五階のボタンを押す。わたしはその間、ずっとうつむいていた。
緊張もあったけれど、それ以上に、係長に顔を見られたくなかった。
ど、どうしよう……これだけ雨に濡れたってことは、メイクも崩れてるよね……。
普段スッピンでいるから、濡れたらメイクが崩れるということを、すっかり忘れていた。しかもウイッグで頭が蒸れて、気持ち悪いし、かゆい。
うー……ウイッグはずしたい。頭、かきたい……けど、ずれちゃったら困るし。
指先でチョイチョイと頭をいじっていると、エレベーターが五階に到着した。係長は「開」のボタンを押しながら、クスリと笑った。
「髪型、せっかく綺麗にしていたのに、崩れてしまったな。部屋に着いたらすぐにタオルを出すから。温かいものでも飲もう」
「あ、ありがとうございます」
そしてエレベーターから降りると、係長がさきを歩き出した。
焦げ茶色をした同じドアが五つほど並んだ中、係長は一番奥にあるドアの前で足を止める。